背景

徳島大学の蔵本キャンパスには、医学・歯学・薬学・栄養学・保健学に跨がる医療系3学部7学科と5大学院があり、酵素・ゲノムの各研究センターと附属病院を加え、多職種にわたる医療人と研究者の養成を担う生命科学の一大教育・研究拠点を 形成しています。

2004年にはこれらを統合してヘルスバイオサイエンス研究部(HBS研究部)が設置され、組織横断的な教育支援のために医療教育開発セ ンターが開設されました。医療系5大学院にはe-ラーニング履修可能な共通科目と共通の授業評価システムを導入し、研究活動の紹介セミナーや大学院リト リート等の分野間交流の場を積極的に設ける等、大学院生や若手研究者を中心とした学内共同研究の環境整備を進めてきました。

目的

近年、生活習慣病等に代表される疾病構造の変化・多様化を背景に、医療系分野では従来の枠組みでは捉えきれない学際的研究とそれを遂行できる研究者のニーズが増大している。

本プログラムでは医療系の全領域を網羅する教育・研究組織がひとつのキャンパスに集約している本学の特徴を活かして、医療系5大学院博士課程から学生を選抜し、所属大学院・専門分野の異なる複数の指導者で形成した教育クラスターが、学生の主体性を尊重した双方向性の指導を一貫して行うことで、領域横断的・学際的研究を自立的に遂行できる世界最高水準の生命科学研究者の育成に取組む。

履修プロセス

本プログラムの学生は、医科学、口腔科学、薬科学、栄養生命科学、保健科学の各教育部の博士課程入学者から1学年12名程度を選抜し、「コラボレーション・組織柔軟性・学習者中心」を キーワードにHBS研究部や酵素・ゲノムの研究センターに所属する複数分野の教員が指導にあたる。

学生は専門科目とともに、共通科目およびクラスター科目 を履修し、研究遂行の土台となる幅広い知識と多様な研究手法を身に付ける。同時に専攻分野の主任教授の指導・責任のもとに新規性に富む領域横断的な研究 テーマの設定を行う。

各教育部長で構成される助言委員会と主任教授は、研究内容に応じて専攻分野を越えて指導教員や指導リサーチアシスタント(RA)を選 抜し、大学院生を核とした領域横断型の教育クラスターを形成する。モデル・クラスターとしては既に実績のある「骨とCa」「ストレスと栄養」「感染・免疫」「肥満・糖尿病」「脳科学」「心・血管」の 6つのクラスターをまず設定するが、学生の提案によりクラスターは可変的である。

教育クラスターの指導者は、それぞれの専門分野を活かして、研究デザイン とその実施を指導する。学生は研究成果の中間報告を行い、また、すでに各教育部と交流実績のあるテキサス大学やフロリダアトランティック大学等の海外教育 研究機関との研究交流も積極的に進める。助言委員会は、この過程を形成的に評価し、研究テーマ・方法の修正や教育クラスターの再編等の助言を行う。医療教育開発センター委員はリサーチコーディネーターと してこれら全体の調整を行う。

このようにHBS研究部と医療教育開発センターが運営を統括することで、公正性、透明性を保ちながら、学生を中心として「研 究計画→実施→検証→改善」を繰り返し、最終的に主任教授の責任で学位論文の作成と学位取得を行う。なお、本プログラムの学生はすべてRAとして雇用し、 教員の研究補助を行いながらその手法を学ぶとともに、後進の研究指導を行い、指導能力も身につける。

本プログラムにより期待できる成果

以下の5点に集約される。

1) 領域横断的研究の遂行能力

複数分野によるコラボレーション指導が一貫して行われることで、多彩な知識と実験手技・研究手法を習得し、領域横断的研究を遂行できる能力が身に付く。

2)自立的な研究遂行能力

研究テーマ設定や教育クラスター形成など、研究プロジェクトの立ち上げからその検証過程に学生自身が関与することで、自立的な研究遂行能力が身に付く。

3)国際性

複数の専門分野で構成されるクラスター教員を通じて、所属大学院を超えた海外教育研究機関との交流が常に可能となり、国際性が身に付く。

4)教育的・経済的支援

学生はRAとして雇用され、教育的かつ経済的観点から、手厚い支援を受けることができる。

5)研究交流や横断的研究の活性化

大学院生を核として異なる分野の指導者が教育クラスターを構成し、共通のテーマでコラボレーションすることで、分野間の研究交流や横断的研究が活性化し、従来の枠組みでは得られなかった新規性かつ水準の高い研究成果が期待できる。

教育クラスターの形成

以下の要素をもつクラスターを形成する。

1)組織横断的教育クラスター

医学・歯学・薬学・栄養学・保健学の医療系全領域にわたる各分野から専門性の異 なる複数の教員が参加 して教育クラスターが形成される。また、助言委員会は各教育部長で構成され、定期的に評価・助言を行い、専任教員を含めた医療教育開発センター委員が、リ サーチコーディネーターとして全体の調整を行う。このように学生は従来の徒弟制度的指導ではなく、主任教授の他に複数分野の教員からの助言・指導をうける ことができる。

2)双方向性指導

教育クラスター、助言委員会、リサーチコーディネーター三者による公平性・透明性のある体制に基づき、研究テーマの設定から学位取得に至るまでの全研究過程において、学生の自主性を尊重しながら双方向性の指導を行うことで、自立的研究遂行能力を育成する。

3)国際交流

各教育部所属教員を介して海外との研究交流を拡大し国際性を身につける。

学生支援

学生の流動性を向上させる方策

全専攻間共通科目の設定と他の教育部の講義受講による単位認定制度を設け、様々な大学・学部出身者に対する補完的教育を行っているが、本プログラムではさらにクラスター科目によって基本的知識や研究・実験手法の指導を強化する。社会人大学院生に対しては、共通科目に24時間自宅から受講可能なe-ラーニングを導入し、また、構内保育所の利用等の支援を行っている。留学生には英語特別コースを開設し英語による講義を実施している。本プログラムでは複数の教育部教員からなる教育クラスター形成によって、出身学部を超えた学生の流動性を促進する。

学生への経済的支援

優秀な学生には授業料免除や奨学金の支給制度を確立し、RAとして雇用するなど経済的支援も実施している。本プログラムの補助金により学生全員をRAとして雇用し経済的支援を強化する。

キャリアパス形成

キャリアパス支援は、従来は指導教員あるいは所属教育部単位であったが、本プログラムの学生は複数の教育部の教員から幅広い助言を得ることができ、多様なキャリアパス形成を支援する。

多様な学生が切磋琢磨する環境

本学の医療系大学院では修士課程、博士前期課程を中心に他大学や他学部からの学生を幅広く受け入れている。また、海外からの留学生を積極的に受け入れるとともに、テキサス大学やフロリダアトランティック大学等の海外研究機関との定期的な交流を行っている。さらに、若手研究発表会、研究リトリート、留学生交流会等のイベントも定期的に開催している。本プログラムでは、クラスター指導体制の構築により、様々な経歴や出身学部の学生が議論・交流する機会を創出する。

取組実施体制

研究科・専攻

主たる研究科・専攻名

 医科学教育部・医学専攻 [博士課程]

研究科専攻名

 医科学教育部 医学専攻 [博士課程]

 医科学教育部 プロテオミクス医科学専攻 [博士課程]

 口腔科学教育部 口腔科学専攻 [博士課程]

 薬科学教育部 創薬科学専攻 [博士後期課程]

 薬科学教育部 医療生命薬学専攻 [博士後期課程]

 栄養生命科学教育部 人間栄養科学専攻 [博士後期課程]

 保健科学教育部 保健科学専攻 [博士後期課程]

取組実施担当者

 玉置 俊晃:医科学教育部・医学専攻・医科学教育部長(取組代表者)

 赤池 雅史:医科学教育部・医学専攻・医療教育開発センター・センター長

 林 良夫 :口腔科学教育部・口腔科学専攻・ヘルスバイオサイエンス研究部長,口腔科学教育部長

 高石 喜久:薬科学教育部・創薬科学専攻・薬科学教育部長

 武田 英二:栄養生命科学教育部・人間栄養科学専攻・栄養生命科学教育部長

 二宮 恒夫 :保健科学教育部・保健科学専攻・保健科学教育部長